必死のカバ

「目をなくしたカバ」という寓話があります。

(『ものの見方が変わる 座右の寓話』戸田智弘著/ディスカヴァー・トゥエンティワン)

――ここから――

一頭のカバが川を渡っているときに自分の片方の目をなくした。カバは必死になって目を探した。前を見たり、右側を見たり、左側を見たり、体の下を見たりしたが、目は見つからない。

川岸にいる鳥や動物たちは「少し休んだほうがいい」と助言した。しかし、永遠に目を失ってしまうのではないかと恐れたカバは、休むことなく、一心不乱に目を探し続けた。それでも、やはり目は見つからず、とうとうカバは疲れはてて、その場に座り込んでしまった。

カバが動きまわるのをやめると、川は静寂をとり戻した。すると、カバがかき回して濁らせていた水は、泥が沈み、底まで透きとおって見えるようになった。こうして、カバはなくしてしまった自分の目を見つけることができた。

――ここまで――

かつての私は、このカバにそっくりの性格をしていました。

ものをなくした時には、ずっと心に刺さったまま、今見つけなければ一生失ってしまうのではないかと思うぐらいに、しつこく探し続けていました。

ですから、かつての自分を見ているようで、このカバの必死さがよくわかるのです。

あきらめたのは(じっさいはあきらめていなかったのですが)ほかの用事が差し迫っていて、時間切れになってしまっていたから。

時間や体力が無限にあったら、ずっと探し続けていたかも知れません。

幸いに、最近はものをなくすことに頓着しなくなってきたように思います。

良い意味で失うものの方が多いということがわかったというのもありますし、全てはうつり変わる途中であるというのが、いろいろ実感してきたというのもあります。

そしてカバがしたように、一度落ち着いて水でも飲んで一息ついた方が、ずっと良い結果が出るものだということも、わかってきたように思います。

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