「冬来たりなば、春遠からじ」

 

誰の言葉か知らなくても、詩人シェリーの、次の言葉はあまりにも有名です。

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冬来たりなば、春遠からじ

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冬のあとには必ず春がやってくる。今は不幸の時期かも知れないが、それを耐え抜いていけば、やがて幸運な時期もやってくるというたとえで使われます。

有名な一文ですが、これはシェリーの「西風の賦(ふ)」という叙情詩の一節から引用したものです。

全部で第5章からなる長い詩で、とても全部をここに載せることはできませんが、「冬来たりなば、春遠からじ」にあたる英文の一行は最後の最後に出てきます。

If Winter comes, can Spring be far behind ?

この文を「冬来たりなば」と訳したのは、当時映画化された別の小説のタイトルを引用したという話ですから、口に馴染みやすい韻やリズムを重要視した面もあるようです。

直接的に訳せば下の文のようになるのでしょうか。

冬が来たなら、春が遠いことがあり得ようか?

いずれにせよ「冬がやって来たならば、春は遠くないだろう」という意味です。

つまり、この詩には、冬の真っ只中に「春は遠くない」と言い切っている力強さがあります。

詩人シェリーは、決して受け身ではないのです。春の訪れを、ただ待っている訳ではありません。

西から吹く冷たい風に向かって、彼の決意を叫んでいます。

「冬来たりなば、春遠からじ」という言葉は、本来はシェリーの心に寄り添ったそれぞれの決意表明の言葉なのだと思います。

最終章(第5章)の訳詩を載せますね。

 

 

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森が風に鳴るように私をおまえの竪琴にしてくれ。

私の葉が森のように散り落ちてもかまわない。

おまえの力強い風のどよめきは森と私の両方に

 

 

悲しくも美しい秋の深い調べを奏(かな)でさせる。

おまえ激しき魂よ、私の魂になれ!

おまえは私になれ、激烈極まるものよ!

 

 

私の死んだ思想を枯葉のように舞い上げ

宇宙に追い立てて新たな生命を芽生えさせよ。

そして、この詩の魔術的な力によって

 

 

まだ消えつきぬ炉から灰と火の粉を撒くように

私の言葉を人類の間に振り撒いてくれ!

私の唇を通じてまだ目覚めぬ大地に

 

 

予言のラッパを吹き鳴らしてくれ!おお西風よ、

冬が来たなら、春の遠いことがあり得ようか。

 

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