日常の外来診療で、時々陥りがちになって後悔してしまうのは「その患者さんのことを知ったつもりになる」ことです。
(この人はこういう人だから、きっとそういうことに違いない)とか、診断についても(上気道症状が強いから、きっとウイルス性に違いない)とか。
常に自戒しているつもりなのですが、色分けしてしまったり、先入観で決めつけてしまうことで、本当のことを見えにくくしてしまうのです。
それだけならまだしも、間違った判断をしてしまいがちになります。
それに気づいた時は、次の文句を呪文のように繰り返し心の中で唱えています。
「私はあなたのことを何も知らない」
何も知らないから、聞かせていただく。
「なにも知らない」というのは、無責任でぞんざいなイメージがありますが、「私はあなたのことを何も知らないから、聞かせてほしい」という姿勢を貫くことは、話をする患者さんが自ら解決の道を発見することになる、それはよく経験することです。
ただし、それには時間がかかります。
物語を語られていくのを、拝聴する。
限られた時間の中で何ができるか、模索していく毎日と言えます。