よき観察者であること

 

実際に生活していくということは、知識も大事ですが、実践です。実践の連続です。

実践し経験を積んできた方々は、年月とともに歳を重ねていきます。

老いを迎え、体のあちこちが痛くなり、思い通りに体が動かなくなって、やはり少々うろたえてしまうのでしょう。

その患者さんは、少々気が弱くなってしまったのか、医者というだけで私のような若輩の者にアドバイスを求めてきました。

「先生、歳をとるって、こんなものでしょうか。」

私は頭を下げながら、体を真正面に向きなおしました。

「歳をとることに関しては、私よりもあなたの方が経験者です。私はみなさんのお話を聞かせてもらって勉強させていただいているものです。」

「歳をとるってことは、先生、とにかく大変なことですね。」

「みなさん、そう言います。けれども、今の世の中をつくってくれたあなた方のような先輩たちが、歳をとっても生き生きと生活しているだけで、私たちの励みになります。老いを迎えることの準備になります。」

そして「お友達はどう言っていますか?」とたずねました。

同年代の友人たちは、家でひとりでいると1日誰とも話さない、本当の閉じこもりになってしまうからと、連絡を取り合って毎日必ず外で会合の機会を設けているのだそうです。

「いやあ、面白いですね。さすが、ですね。」

「私たちはモノはなくてもアイディアで乗り越えてきた世代ですから」

その患者さんは、少し元気を取り戻してくれたようです。

人と人、人と社会がつながっていること。それを思い出したのでしょうね。

私の外来には、ほかに百寿者の方もいます。

自分の体のことに関して、よく観察していますし、研究熱心です。

自分の心身に対して、よき観察者であること。

実は、健やかな老いを迎えるにあたって、これが大切なキーワードではないかと思っているのです。

 

 

 

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