小説「慟哭」

 

物語の形式自体に仕掛けがあるミステリーのことを「叙述ミステリー」といいます。

 

アガサ・クリスティの「アクロイド殺し」が有名ですね。

 

この作品は、物語の語り手自身が実は犯人だったという、挑戦的で意欲的、型破りな小説でした。

 

発表当時は「この手法はフェアなのか」と、かなり物議をかもし出したそうです。

 

いずれにせよ、推理小説の歴史上に残る作品として有名です。

 

つまりは、通常のミステリーは他の登場人物に対して犯人がしかけるトリックが肝なのですが、叙述ミステリーは作者が読者に対してしかける表現方法としてのトリックが主題なのです。

 

ですから、読者が「叙述ミステリー」と知らないで読むのと、知っていて構えて読むのとでは、インパクトがまったく違ってしまいます。

 

いわゆる「ネタバレ」が致命的であるのが、「叙述ミステリー」の難しいところだと思います。

 

その難しい試みを、作者は、特異な状況と人間の奥底に宿る(ある意味、普遍的な)闇を表現することで「読ませる」ことに成功しました。

 

事件の進行と犯人の心情の変化によって、次へ次へと読み進ませてしまう面白さがありました。

 

1993年の作品で、作者のデビュー作とのことです。

 

やはり、世相を反映した小説なのかと思いましたが、「後記」で「モデルは実在しない」ときっぱりと否定していました。

 

 慟哭 貫井徳郎著

 

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA