吉野弘さんの詩を時々読む返すことにしています。
何気ない言葉に、内省するヒントがちりばめられている気がするからです。
自分を哲学する、とっかかりとして、脳をゆさぶってもらっています。
「樹」という詩を紹介しますね。
樹
人もまた、一本の樹ではなかろうか。
樹の自己主張が枝を張り出すように 人のそれも、
見えない枝を四方に張り出す。
身近な者同士、許し合えぬことが多いのは
枝と枝とが深く交差するからだ。
それとは知らず、いらだって身をよじり 互いに傷つき折れたりもする。
仕方のないことだ 枝を張らない自我なんて、ない。
しかも人は、生きるために歩き回る樹 互いに刃をまじえぬ筈がない。
枝の繁茂しすぎた山野の樹は
風の力を借りて梢を激しく打ち合わせ
密生した枝を払い落とす――と
庭師の語るのを聞いたことがある。
人は、どうなのだろう?
剪定鋏を私自身の内部に入れ、
小暗い自我を 刈りこんだ記憶は、
まだ、ないけれど。