なんだか毒気に当たりたい気分の時。
あるいは、ブラックユーモアをしたり顔でキメてみたり、ニヒリスティックな視点を披露してちょっと高みから眺めてみたい時。
そういう時は「安定(!)」の筒井康隆さんの作品をおすすめします(笑)。
「リリカル短編集」と銘打っているだけあって抒情詩的な短編作品が面白い。
作品世界の設定がまず常識からはずれがちです。
語り手の正体が実は人間以外のモノであったとするオチは、筒井ワールドでは普通のこと。
さらりと表現した形容が、道端の小石のようにさりげないのですが、それが事実を物語っていると知った時、真実が浮かび上がってきます。
それがなんとも悪意があったり冷たかったり、面白いのです。
作者が「ほら、ほら(笑)」とほくそ笑んでいるのが目に浮かぶようです。
不思議な世界ですが、饒舌な説明は一切ありません。
登場人物たちが物語を動かしていくうちに、読者はその世界の常識(あるいはルール)を知っていきます。
そして、その世界を知り尽くして住人となった瞬間、短編小説は幕を閉じ、読者はその世界に置き去りにされるのです。
そのリズムは星新一さんのショートショートに似ていますが、性質は全く違います。
読後も不思議な余韻を楽しんでいました。