歳を重ねること

 

記憶が曖昧で不確かなので恐縮ですが、糸井重里さんがコラムで「歳を重ねていくということはとにかく体のどこかが痛くなる」というようなことをおっしゃっていました。

「これから歳を取る人のために、いつか役に立つかも知れないので書いておくのだけれど」というようなことも添えられていたような気がします。

 

先日、外来に70歳台後半の男性が「右の脇の下あたりと左の腰のあたりが痛い」ということで受診されてきました。

いろいろと診察しても、痛みの原因がよくわかりません。

(レントゲン写真を撮った方がいいのか、だけど、それでいったい何がわかるものなのか…)

患者さんの多くは「検査すればわかる」と思っているのだと思います。

例えば、肺炎や胸膜炎、腸閉塞、骨折(残念ながらわからないこともある)などを疑って、レントゲン検査を行えば、有益な情報が得られるでしょう。

けれども、実際は検査前に鑑別疾患があがらない検査は、ムダになることが多いのです。

ましてや、X線は体に無害ではありませんし、いたずらに検査するものでもありません。

 

私が悩んでいると、患者さんが言いました。

「大きな病気がなさそうなら、少し様子をみようかと思います。先輩たちが『歳を取るということは体のあちこちが痛くなるものだからな』と言っていた、アレなのかも知れないですね。」

「う~ん。そうですねえ。…そうなのかなあ。」

「私も歳を取るのは初めての経験ですから、少し慌てすぎたかも知れません。」

「初めての経験…ですか。」

「じゃあ、先生。また何かあったらよろしくお願いします。」

 

最近、別々の機会に同じような言葉を耳にしました。

「我々医療者は病気、疾病についての知識はあるが、老いについての知識と経験が足りない。」

まさしく、その通りなのだと思います。

 

「歳を取ることは初めてなので」とにこやかに笑う患者さんに救われました。

 

 

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