夏目漱石「私の個人主義」

 

「私の個人主義」は、夏目漱石が学習院の学生たちに講演した内容を文章化したものです。

もちろん、青空文庫で読むことができます。

こちら→ 「私の個人主義」青空文庫

 

 

「何をしたいのかわからない。」

「願いは叶うものだと煽られるけれども、そもそも何を願っているのかわからない。」

自己啓発やポジティブ思考がもてはやされる昨今、こういう悩みを持つ人は意外に多いものです。

 

 

若かりし日の夏目漱石も、その苦しみに悩みつづけた一人でした。

「私はこの世に生れた以上何かしなければならん、といって何をして好いか少しも見当がつかない。私はちょうど霧の中に閉じ込められた孤独の人間のように立ち竦(すく)んでしまったのです。そうしてどこからか一筋の日光が射して来ないかしらんという希望よりも、こちらから探照灯を用いてたった一条(ひとすじ)で好いから先まで明らかに見たいという気がしました。ところが不幸にしてどちらの方角を眺めてもぼんやりしているのです。ぼうっとしているのです。」

 

 

極限的な局面に追い詰められた夏目漱石は、「自己本位」という考え方に到達します。

「私はこの自己本位という言葉を自分の手に握ってから大変強くなりました。彼ら何者ぞやと気慨が出ました。今まで茫然と自失していた私に、ここに立って、この道からこう行かなければならないと指図をしてくれたものは実にこの自我本位の四字なのであります。」

 

 

「自己本位」とは、「わがままであれ」と言っているのではありません。

自分の思考、特に関心は、結局自分にしかわからないということです。

他人が押し付けた価値観や表現は、「他人本位」にしかなりません。「他人本位」のモノサシで自分を測っても、自分のやりたいことや願い事が測定値として出てくることはないということです。

 

 

「自分本位」の目盛りを刻んだモノサシを使うようになってから、「大変強く」なったのだと夏目漱石は言っています。

勇気を与えてくれる言葉だと思います。

 

 

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