「博士の愛した数式」

休日に時間が空いたので、ビデオで映画を観ていました。

以前に観たことがあって、原作もお気に入りの「博士の愛した数式」です。

寺尾聰さん演じる数学博士は、10年前の交通事故の影響で、脳に80分間しか記憶を保つことができません。

彼の生活の世話をすることになった深津絵里さん演じる家政婦さん親子との心温まる交流を描いた映画です。

博士は毎朝、彼の記憶にとって初対面である家政婦さんにこう訪ねます。

「君の靴のサイズはどのくらいだね?」

「24です。」

「24は4の階乗だね。実に潔い数字だ。」

4の階乗というのは自然数1から4までを掛け算した数字です。

つまり、1×2×3×4=24

また、家政婦さんの誕生日が2月20日だと知ると

「2月20日なら220だね。ほら、見てごらん。この時計の番号は284だ。220と284は友愛数なんだ。友愛の絆に結ばれた数字だ。」

友愛数というのは、220の約数の(220を除いた)総和が284。

284の約数の(284を除いた)総和は220。

とても不思議な関係の2つの数字のことです。

一時(ひととき)しか記憶がない博士は、自然にありのままに生きるしかありません。

記憶のない彼の反応が毎回同じであり、数学や人間に対する愛情が不変であることが貴重で稀有なものに感じられます。

映画はウィリアム・ブレイク の詩「無垢の予兆」から4行を最後に終わります。

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何度観ても素敵な映画です。

 

 

「無垢の予兆」Auguries of Innocence(壺齋散人訳)

一粒の砂の中に世界を見
一輪の花に天国を見るには
君の手のひらで無限を握り
一瞬のうちに永遠をつかめ

コマドリの籠の中では
天国が勢いよく詰まっている
鳩が充満した小屋の中では
地獄が一面に震えている

イヌが門の前で飢えていれば
それは国が滅びる前兆
馬が路上でこき使われていれば
天がやがて人の血を流す

狩られたウサギが泣き叫べば
脳みその神経が引き裂かれる
ひばりが翼を傷つけられれば
ケルビムは歌うのをやめる

シャモが戦いに備えれば
昇る朝日を驚かす
狼やライオンのうなり声は
人の心を地獄から呼び起こす

野の鹿はあちこちをさまよい
人の心を平安に保つ
子羊は争いの種になるが
いずれは肉屋のナイフにかかる

夕闇に飛び回るコウモリは
不信心な考えをもたらす
夜を待つフクロウは
不信心の恐怖を語る

ミソサザイを傷つけるものは
決して人に愛されない
牡牛を驚かすものは
女性に愛されることがない

ハエを殺すやんちゃ坊主は
クモの恨みを買う
甲虫をいじめるものは
闇夜に寝床を編むはめになる

葉っぱの上の毛虫が
お母さんのため息を繰り返す
蛾も蝶々も殺しちゃだめよ
最後の審判が近づいてるから

馬を戦争に訓練するものは
極地の門をくぐれない
乞食のイヌと寡婦のネコに
餌をあげれば君も太れる

夏の歌を歌うブヨは
悪口から毒を吸い取る
蛇やイモリの出す毒は
妬みの足ににじむ汗

蜜蜂が出す毒は
芸術家のヤキモチ
王子の衣装と乞食のボロは
けちん坊のバッグの中の毒キノコ

真実も悪意をもって語られれば
とびきりのうそになる
まったくもってそのとおり
人には喜びと苦しみがつきもの

このことを正しく理解すれば
私たちは安心して暮らしていける
喜びと苦しみを按配すれば
神聖な魂の着物になる

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