「病院の言葉」を一般の人に届ける試み

国立国語研究所の『「病院の言葉」を分かりやすくする提案』というホームページは、私たち医療者にとっても参考になります。

医学用語に限らず、病状を説明するにしても、一般の方では一度聞いただけでは理解できないことが多く、表現も難しくなりがちです。

例えば、「寛解」という言葉もそうですね。

上記のホームページでは、「まずこれだけは」の項目では、こう言い換えています。

「症状が落ち着いて安定した状態」

「少し詳しく」説明の項目では

「症状が一時的に軽くなったり,消えたりした状態です。このまま治る可能性もあります。場合によっては再発するかもしれません」

あってはならないことですが、残念ながら、医療者と患者さんの言葉が伝わらないということが日常的に起っています。

そこでは、言葉が伝わらない原因として大きく3つを挙げています。

 ① 患者に言葉が知られていない

医療者は、医療者間で日常的に使っている言葉は当然のように意味が通じる言葉として無意識に使ってしまうかも知れません。けれども、一般の方にはよく知られていないので、十分な説明が不足しがちになります。

例えば、「浸潤」「耐性」「せん妄」「プライマリケア」など。

特に、患者に寄り添う一番近い医療の実践が「プライマリケア」であるにも関わらず、一般の方にはあまり知られていないことは反省するところです。

② 患者の理解が不確か 

細かく分けると

  1)意味が分かっていない

  2)知識が不十分

  3)別の意味と混同

ここでは、例えば「炎症」を事例にあげていました。

「炎症が起こっている」という言葉は確かに便利な言葉で,多くの患者はどこまで理解しているかは別として、何となく分かった気にさせる言葉である。しかし、炎症を素人に短時間で医学的に正しく理解させることは大変困難でもある。「細菌が体内に侵入し、悪さをするので、これを防止するために白血球が細菌と戦っており、このためにはれて、痛くて、熱が出るのです。この戦いで死んだ白血球と細菌が膿(う)みとなって出てくるのです」と説明すると理解が得られることが多い。

 

 ③ 患者に理解を妨げる心理的負担がある

なるほどと思ったのは、この原因③の項目でした。事例に「腫瘍」を挙げています。

卵巣に腫瘍があり、画像検査等より良性が考えられたが、腫瘍=がん、との思い込みがあり、患者は非常に落ち込んでしまった。 詳しい説明に入る前に、腫瘍には良性と悪性があることを理解させ、十分な時間を使って説明するようにしている。

実は、私の日常診療の中でも「総合病院で良性腫瘍と言われた。」と落ち込み、食事ものどを通らず、夜も眠れなくなったためクリニックに駆け込んできた患者さんがいました。

その患者さんは「腫瘍」という言葉で「がん」だと理解し、「良性」という言葉が頭に入らなくなっていたのでした。
 
伝える言葉というのは、もちろん、相手に伝わって初めて意味があるものです。

そして、相手に伝わった意味は、それが正しく伝わっていなくても、与える影響はとても大きなものです。

正確に伝える努力をしなければならないと改めて思いました。
 
このホームページを作成した国立国語研究所「病院の言葉」委員会は、平成19年10月から平成21年3月まで活動を行って、現在は解散しているそうですが、非常に有意義な研究報告だと思います。

是非、一度ご覧ください。

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