「このミステリーがすごい!」で2013年の第一位なのだそうです。
読者の感想で「万人向けではない」とか「誰もが面白いとは思わないだろう」とか「マニアックの人にはたまらないかも知れない」とか。
そんな言葉が並ぶような作品ということで、早速読んでみました。
なるほど。
そういう評判は別にして、これは面白かったです。
ノックスと言うのは、ロナルド・ノックスのこと。
物語りは「ノックスの十戒」を軸として進行していきます。
十戒というのはノックスが発表した探偵小説を書くにあたってのルール。
以下は小説の中からではなく、Wikipediaから。
ちょっとだけ我田引水的に勝手に改変しています。
1.犯人は物語の当初に登場していなければならない。
2.探偵方法に超自然能力を用いてはならない。
3.犯行現場に秘密の抜け穴・通路が二つ以上あってはならない。
4.未発見の毒薬、難解な科学的説明を要する機械を犯行に用いてはならない。
5.中国人を登場させてはならない。No Chinaman must figure in the story.
6.探偵は、偶然や第六感によって事件を解決してはならない
7.変装して登場人物を騙す場合を除き、探偵自身が犯人であってはならない
8.探偵は読者に提示していない手がかりによって解決してはならない
9.“ワトスン役”は自分の判断を全て読者に知らせねばならない
10.双子・一人二役は予め読者に知らされなければならない
問題なのは第5項のルール。
「探偵小説に中国人を登場させてはならない。」
あえて英語を並べたのは理由があります。
この物語では(特に続編では) 「Chinamanを登場させるのは決して No だ。」 から
いつの間にか 「“No Chinaman”は登場させなければならない。」 とストーリーが展開していくのです。
主人公のユアン・チンルウはノックスのもとへタイムトラベルをする羽目になります。
この第5項が、ユアンとノックスの邂逅がきっかけとなるのだということは想像に難くない話です。
けれどもその真実の理由が、探偵小説に「タイム・トラベル」を持ち込んではならないという隠れたメッセージがあったのだとする着想は見事だと思いました。
しかも、どうして「タイム・トラベル」が「中国人を登場させてはいけない。」という表現になったのかというひねくれた論理も素晴らしいと思います。
この辺は思い切り論理が跳躍した方が、面白味が増すところではないでしょうか。
それから。
この小説を読んでいると、古典ミステリーと呼ばれるエラリー・クイーンやアガサ・クリスティをもう一度読み返したくなりました。
作者自身が大変な読み手であることがよくわかります。
「国名シリーズ」も確か実家の本棚に並べていたはず…。