心理学では、病的な自己愛をナルシシズムといいます。
ポピュラーな言葉ですが、ポピュラー過ぎて意味を考えずに使ってしまう言葉のひとつなのかも知れませんね。
改めて、どんな意味なのかは極端な例を出すと想像がつきやすくなると思うので
「自己愛性パーソナリティ障害」の診断を下記に記してみます。
誇大性(空想または行動における)賞賛されたいという欲求、共感の欠如の広範な様式で、成人期早期までに始まり、種々の状況で明らかになる。
以下のうち5つ(またはそれ以上)によって示される。
(1)自己の重要性に関する誇大な感覚(例:業績や才能を誇張する、十分な業績がないにもかかわらず優れていると認められることを期待する)
(2)限りない成功、権力、才気、美しさ、あるいは理想的な愛の空想にとらわれている。
(3)自分が“特別”であり、独特であり、他の特別なまたは地位の高い人たちに(または施設で)しか理解されない、または関係があるべきだと、信じている。
(4)過剰な賞賛を求める。
(5)特権意識、つまり特別有利な取り計らい、または自分の期待に自動的に従うことを理由なく期待する。
(6)対人関係で相手を不当に利用する。つまり、自分自身の目的を達成するために他人を利用する。
(7)共感の欠如:他人の気持ちおよび欲求を認識しようとしない、またはそれに気づこうとしない。
(8)しばしば他人に嫉妬する。または他人が自分に嫉妬していると思い込む。
(9)尊大で傲慢な行動、または態度。
(以上、DSM-Ⅳ-TR 精神疾患の分類と診断の手引き(医学書院)より)
その名前の由来となったナルキッソスはギリシャ神話の登場人物です。
今回はナルキッソスとエコーについてのお話をしましょう。
ナルキッソスは美貌の青年。
河神ケピソスと妖精(ニンフ)のレイリオペの子どもとして生まれました。
彼がうまれたときの預言者の言葉が
「この子が自分自身を知ることがなければ長生きしよう」
というものでしたが、その言葉の意味を誰も理解できずにいました。
美しく成長したナルキッソスは、その美貌ゆえに男女の隔てなく恋愛の的となりました。
そして、妖精(ニンフ)のエコーも彼に恋しました。
エコーは、ゼウスが浮気をしているときに妻のヘラに話しかけて監視の目をそらせる役目をしたため
激怒したヘラによって呪いをかけられてしまいました。
その呪いとは
「自分から他人に話しかけることができなくなる。また他人から話しかけられても、その言葉の最後の音節を繰り返すことしかできない。」
というものでした。
そのため、彼女は自分の気持ちをナルキッソスに打ち明けることができなくなり
心労のあまり痩せてしまい、姿をなくし、ついには声だけになってしまいました。
これが木霊(こだま)の始まりです。
エコーの苦しみを理解せずに冷酷な仕打ちを繰り返したナルキッソスにも愛への侮辱だとして神々の罰がくだります。
他人を愛せないナルキッソスが、ただ自分だけを愛するようにしたのです。
ある日、ナルキッソスは狩りに出かけます。
その途中で喉を潤しに泉にやってきたナルキッソスは、泉に映った自分に恋をしてしまいます。
決して報われることのない恋です。
彼は次第に衰え、やがてその泉の水辺で息絶えてしまいました。
そこには白い花びらの水仙が残ったということです。
余談ですが、水仙のことを英語で narcissus というそうですね。
預言者の言葉を思い返してみてください。
「この子が自分自身を知ることがなければ長生きしよう」
水面に映る自分自身を知ることがなければ、身を滅ぼすことはなかったのかも知れません。
でもやっぱり時間の問題だったかな…。