「相思樹」

 

沖縄のあちこちに見られる相思樹という木があります。

小学生の頃に、その名前の由来を知る機会があって

それだけで特別の感慨をもって眺めたものです。

いえ、気持ちが特別になっただけで、どこにでも見られる常緑樹なのですが。

 

 

「鴛鴦(えんおう)の契り」として知られているお話です。

よく知られたお話ですが、ご紹介します。

 

 
春秋時代、宋国のお話。

 

宋の康王という王がおりました。

その家来に韓憑(かんぴょう)という男がいました。

 

韓憑は絶世の美女を妻にもらいます。

しかし、康王は妻を側室にしてしまいました。

なかば略奪のようなものです。

 

そのうえ、韓憑を陥れ無実の罪でとらえて重刑に処してしまいます。

 

 
妻は韓憑に隠語を駆使した手紙を送りました。
 
「長雨が続いて、川は広く水も深い、日はのぼって胸を照らします」

 

 
誰もこの意味を理解することはできませんでしたが、ある側近が謎解きを行います。

「長雨が続くとは、憂いながらあなたをお慕い申し上げているということでしょう。

川は広く水も深くとは、あなたのもとに通うことがかなわないということ。

そして、日はのぼって胸を照らすというのは、死を誓ってでもあなたを愛しておりますということでしょう。」

 

 
その後、韓憑が自殺します。
 
これを聞いた妻は、後を追って身投げをして死んでしまいました。
 

妻の遺書には

「王は私の身体を自由になさいました。

死んでしまってからは、私の体を自由にさせてください。

私の遺体を、どうか夫と一緒に葬ってください」
 
とありました。

 

王は、余計に怒り、妻の最期の願いを無視します。

一緒どころか、二つの墓を離し、しかも向き合うように埋葬するように命じます。
 

 
「お前たちは死してなお愛し続けるつもりか。

ならば二つの墓を一つに合わせることもできよう。

もし、ひとつに出来たなら、その時はわしも認めようではないか。」
 

しばらくして、二つの墓の端から、大きな梓の木が芽吹きました。
 
十日もしないうちに立派に育ち、土の中では根がからみあい、互いの幹は近づき、枝が交わりはじめました。
 

 

その木の上には雄と雌の一対の鴛鴦(おしどり)が巣を作り、悲しそうに鳴いたそうです。

 

宋国の人々は二人のことを想い、この木のことを『相思樹』と名づけたのでした。

 

 

 

 

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