かなり以前読んだ本に「パラサイト・イヴ」(瀬名秀明著)があります。
リチャード・ドーキンス博士の利己的遺伝子説
「生物は遺伝子によって利用される“乗り物”に過ぎない」
をモチーフにしたホラー小説でした。
細胞の中の小器官であるミトコンドリア。
そのミトコンドリアのDNAは、実は細胞の核DNAとは別にあります。
ミトコンドリアのDNAを中心にすえると、そのDNAはミトコンドリアを“乗り物”にしていて
さらに細胞、もっと言えば生き物を“乗り物”にしていることになるというものです。
ミトコンドリアDNAが意思を持ち、“乗り物”である生き物を操作、操縦することができたらという発想で生まれたホラー物語でした。
生物の進化論など、科学的な要素も入れ込みながら発想が面白く、当時興奮しながら読んだことを思い出します。
なぜ「パラサイト・イヴ」の話を持ち出したかというと、こんな言葉にぶつかったからです。
「風邪の引き初めには人は優しくなる。それは病原体が感染率を高めるためである。」
ちょっと素通りしかけて「ん?」と思いました。
風邪を引いた人に(特に家族に)優しくしてあげるのは普通の行為ですね。
でも、これは風邪を引いてしまった側のことを言っているようです。
例えばちょっと気難しくて普段は人を寄せ付けない人でも、病原体が人を操作して優しい雰囲気を出してしまう。
周りの警戒心を解いて人を寄せて、風邪の感染率を高める。
…なるほど。面白い説ですね。
なんだか、そう言えば…と思い当たるシーンもなくはないかなあ。
だけど風邪の引き初めって、体もだるいし、あまり考えたくもないし
自重するし、確かに攻めないですから。
そういう雰囲気を「優しくなる」と言っているだけのような気もしますが…。
ただし、この10年間で人間の体内外に生息する微生物集団やウイルスに対する考え方が変わってきています。
「微生物集団は私たちの体の一部である。」というものです。
総称してヒトミクロビオームと呼ばれています。
ヒトの体内には多くの微生物が共生していて、実に細胞の90%は微生物なのです。
腸内だけでも1,000種もの微生物が生息しているといわれているのです。
例えば、時々野菜を食べたくなったり肉を食べたくなったり。
自分の脳が感じた食欲だと思っていたものが、実は腸内細菌からの指令かも知れない。
「肉足りないぞぉ。肉喰え~。」とか。
宿主に対して焼肉屋に向かわせる信号を送っているかも知れない。
そんな説も出てくるかも知れませんね。
(まっさきに食欲を抑えられない人の言い訳に使われそうです(笑))