記録には平成20年とありますから、もう5年も前の話になりますね。
その年の第106回沖縄県医師会医学会総会の特別講演は
アルフォンス・デーケンさんの
『死生学入門 ~こころ豊かに生きるために~』
というものでした。
医師会の講演ですから、聴衆はみんな医師たちです。
デーケンさんは冒頭
「ここにいるお医者さん達に質問します。私たちの死亡率は何パーセントでしょうか。」
ん?私たち?
健康そうな人もいるなあ。あの人は毎日ジョギングで体を鍛えているって言ってるからなあ。
あの人はこの間話したら高血圧で薬を飲み始めたって言ってたっけ…。
瞬間的に、いろいろな病気別の数字をはじき出そうと頭を回転させます。
デーケンさんは、そんな私たちの頭の中を見透かしたように、にっこり笑って
「100%ですよ!」
え?
私たちが人間として命あるものとして生まれた以上、みんな100%人生を閉じるのです。
そうやって死生学のお話を導入していきました。
人間の死亡率100%!
生きとし生けるものの死亡率100%!
みんな、誰ひとりの例外なくそこへ向かって生きているのです。
死をみつめることは、生きることをみつめることにほかならないというお話でした。
そして、ユーモアのお話をされました。
母国ドイツには「ユーモアとは『にもかかわらず』笑うこと」という有名な格言があるそうです。
大変苦しくつらい状態でも、それにもかかわらず
相手を少しでも喜ばせようとするやさしい心づかいが、ユーモアとなってあふれてくるのだそうです。
そして、そんな状況でも、自分をユーモアで笑ってしまえること。
神が人間だけに与えたすばらしいプレゼントが、ユーモアなのだとおっしゃっていました。
人の強さ、やさしさって、そういうことなのかも知れません。
私もこんな経験があります。
食欲のまったく出ない90歳を超えたお年寄りに、回診中に
「Aさん、今日も食べないねえ。食欲出ないねえ。」
と言ったことがありました。
だんだんと衰弱してしまうのが心配だったのです。
Aさんはニヤリと笑って
「先生、若いね。そうあわてなさんな。」
と親指を立てたのです。
Thumbs up!
見事にやられたと思いました。
ユーモアがある方は、人間としての器も広いように思います。