2013年2月9日には第8回沖縄県透析医会学術講演会がありました。
電気通信大学 大学院情報システム学研究科教授の田中健次先生をお招きして
「安全対策の落とし穴~思い込み『~のはず』に潜む罠~」
という特別講演でした。
現場では、安全対策としてダブルチェック、あるいはトリプルチェックまでおこなっている医療機関もあると聞きます。
田中先生の疑問の出発点はシンプルで非常に大切な視点から出発していました。
「多重チェックは大丈夫か」
実験のきっかけは患者誤認の事故だったということですが
「二重、三重の防護の穴をすり抜けた理由」についての考察は非常に興味深いものでした。
講演は以下の4点についての「思い込み」を覆す形で進行していきました。
(1) 多重チェックでは多重度が増すほどエラー検出率は上がる
(2) チェックリストで作業は確実になる
(3) 安全・警報装置の設置で安全性は向上する
(4) 高信頼度のモノを組み合わせれば高い信頼性が得られる
特に(1)の多重チェックについてのグラフが衝撃的でした。
いろいろ学んだことは多かったのですが、今回は(1)についてご紹介します。
掲載するには著作権などの問題があるでしょうから、グラフのあるサイトを紹介しておきますね。
封筒の宛名書きの間違いを探す確認作業の実験です。
間仕切りのある机に横一列に並び、封筒に印刷された宛名などを順に確認する作業です。
封筒には事前に印刷ミスのあるものを混ぜておいたそうです。
確認作業は、あらかじめ配布されている住所録と照らし合わせて、正しいかどうかをチェックするものでした。
それぞれ、1人での作業、2人の作業、3人、4人、5人の作業で、間違いを見つけた率を調べたものです。
『住所』の項目の間違いの検出率は
1人で確認すると65%
2人で確認すると80%
3人で確認すると65%
4人で確認すると55%
5人で確認すると60%
数字が大きければ大きいほど、間違いを見つけられたということなのですが
これを見てわかるように、3人以上になると、1人の場合の検出力よりも落ちてしまっていました。
かえって逆効果になっているのです。
田中先生は
「多重にチェックしたのに、誤りに気づかない」ではなく、むしろ
「多重にチェックしたからこそ、誤りに気づかない」と言い換えた方が真実なのではないかとおっしゃっていました。
人はどうも人数が多くなると、あるいは頼る相手がいると、どうしても「手抜き」をしてしまう性質をもっているようです。
別の実験では、逆方向でのチェックを実験していました。
リストから薬品を確認する作業と、逆に薬品からリストを確認するという作業です。
逆方向のチェックを行うことで、時間はかかりますが、検出率は向上していました。
同じチェックを重ねて、回数を増やすよりも、違う方法で視点を増やすことの方がより効果的だったわけです。
質の異なる多重化をはかるべきだということでした。
最後に
「見た目で判断『~のはず』は危ない=『私は大丈夫!』はもっと危ない」
とまとめていただきました。
安全対策の「思い込み」に新たな視点をもらった素晴らしい講演だったと思います。
これをどうやって実際に自分たちの現場で活用するかということが重要ですね。