ポジティブ心理学に思うこと

「ポジティブ心理学」が脚光を浴びて久しくなります。

私もある時期とても関心があり、興味を持って本を読み、ことあるごとに触れていました。

 

従来の心理学や医学は、病気や人の弱いところに焦点をあてた学問です。

それとは違って、「ポジティブ心理学」の視点は、人の持つ強みに焦点をあてる心理学ということです。

 

「ポジティブ・サイコロジー」(クリストファー・ピーターソン著)では

ポジティブ心理学とはニコニコ笑顔の元気さだけを扱うものではない。

人生でよい方向に向かうことについて科学的に研究する学問である。

と説明しています。

 

手がかりとして、まずは自分の強みを探し発見することからはじまります。

自分の強みを知りたい人は、ピーターソン自身が開発した質問票によって知ることができます。

日本語でできますので、やってみてはいかがでしょうか。

(ただし全部で240もの質問があり、約30分ほどかかります。)

 

 

ポジティブ心理学というのは、佐久田なりの解釈で申し訳ありませんが

コップの水をまだ半分もあると考えるのか

もう半分しか残っていないと考えるのか

そういう違いを、「まだ~もある」というところから始めてみませんかという考え方だと思っています。

 

「ポジティブ心理学」は「引き寄せの~」などと同様に

落ち込む人々を前向きにさせる応援歌の働きをしてくれるのかも知れません。

 

もちろん、私たち医療者はそれだけではないということを知っています。

「ポジティブ心理学」を否定するものではありませんが

「ネガティブ」を脱せずにいる人の中にも

悪いことだけではないということを示してくれる人はたくさんいるということです。

 

病いを通して、不安や恐怖に直面しながら、人はその時に気づかされることがあります。

病いは決してありがたいものではなく、ポジティブにとらえることなどできないにしても

当事者として痛みを経験してやっと分かることがあります。

 

痛みや苦しみの中で沈んでいる人に、「ポジティブ」だけを求める必要などないということを

私たち医療者は経験的に知っています。

 

ポジティブ心理学に対して、一石を投じたバーバラ・エーレンライクという方の著書があります。

「ときに私たちは不安や否定的な感情と向き合い、外の世界に目を向けなくてはならない。

つらいことかもしれないが、そうしないことの代償は大きいのである。

この危険と機会に満ちた世の中を生き延びていくために、

まず私たちはものごとをありのままに見ることからはじめなくてはならない」

自ら乳がんを患いながら、医療の「ポジティブ心理学」的な精神論を突きつけられた経験が元になっています。

 

「どこまでも前向きな現代の文化」が「ポジティブ・シンキング」の強要であったとしたら

痛みを持つ人は、痛みを通して本当に呼びかけられていることが何かを気づくことができないかも知れないと思います。

 

ポジティブ心理学が、現実把握の先延ばし、現実逃避の言い訳に使われてしまうことのないようにと思います。

 

 

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