ファウスト・百物語・ネオファウスト

突然ですが、ふと思うことがあって家にあったゲーテの『ファウスト』を持ち出して、また読んでみました。

『ファウスト』の結末って正確にはどうだったっけ?と思ったので。

冒頭では、悪魔メフィストフェレスと契約を交わしたファウストは「時よ、とどまれ、おまえはじつに美しい」と口にすることで、契約の条件が満たされ、魂を悪魔が入手できるということで話がすすみます。

あれ?最後にファウストは「時よ、とどまれ」って言ったはずだよなあ。

けれども、死んだ後にも、なんかいろいろあったような…。

 

どうして今『ファウスト』なのかと言うと、毎年1月も後半になってくると思い出されるのが手塚治虫先生だからです。

 

敬愛する手塚治虫先生は、生涯で『ファウスト』を題材にして3回マンガを描いています。

1950年21歳の時に『ファウスト』

1971年47歳の時に『百物語』(日本の戦国時代版にリメイク)

1988年64歳の時に『ネオ・ファウスト』

 

ある人の話によると、手塚治虫先生は、人生の節目、特に危機的状況に陥ったどん底のときに、まるでそこから這い上がるように『ファウスト』に取り組んでいたのだと言いました。

ご本人の言葉を直接見聞きした訳ではないので、真偽はどうなのか分かりませんが、その話を聞いたときに、その話を信じてみたいと思いました。

 

20歳の頃は戦後間もない混乱の時代でした。

『ファウスト』自身も児童向けに描かれていて、結末もハッピーエンドに変更されています。

 

そして『百物語』の1971年は、「人生のどん底」と自ら語っています。

当時、アニメーションの事業の経営不振が続いていて、ついに1971年虫プロダクションを追い出されました。1973年には自らが経営者となっていた虫プロ商事も倒産してしまいます。

手塚治虫先生も巨額の借金を背負うことになり、非常な苦境に立たされていました。

 

そして、1988年、遺作のひとつとなった『ネオ・ファウスト』

1988年11月、旅行先からの帰国と同時に体調不良で入院し、胃癌と診断されます。

胃癌ということは伏せられていたそうですが

実は『ネオ・ファウスト』に登場する主要な人物「坂根第造」はストーリーの中で胃癌にかかり、医者や周りは気遣って胃癌であることを伝えないのですが、本人は胃癌であることを知っていているという内容が描かれています。

 

『ネオ・ファウスト』では下書きのままの原稿が続きます。

死の直前までマンガを描いていた様子が伺えて、胸が痛む数ページです。

 

手塚治虫先生は、『ファウスト』の何を見ていたのでしょうか。

 

そう思って、ゲーテの「ファウスト」を改めて読んでみたのです。

 

『ファウスト』の結末は、悪魔メフィストフェレスと契約したのにも関わらず、ファウストは意外にも地獄に落ちるわけではありませんでした。

未来永劫、悪魔の虜になるわけではないのです。

ファウストは最後、自分が得た海岸沿いの土地の干拓事業に乗り出しています。

盲目となったファウストは、建築工事のつるはしの音を聞き、仲間のために働き、協同する最高の幸福を予感して「時よ、とどまれ、おまえはじつに美しい」と契約の言葉を発したのでした。

 

その身体は滅びますが、その魂は天使たちに天上へと運ばれながら

「霊の世界の高貴な一人が悪から救われた。たえず努めて励む者には、天使がついている。

天上から愛の手がのび、清浄の群れがいそいそと出迎えにくる。」

と祝福されているのです。

 

 

「たえず努めて励む者には、天使がついている。」

 

素晴らしい言葉だと思います。

生涯をかけて、懸命に打ち込んだファウストに、やはり手塚治虫先生の姿を重ねずにはいられません。

 

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA